黙って俺を好きになれ
「・・・っっ」

面と向かい、動じもしないで言い切ったのを思わず前のめりになった。違う!そんなことない、幹さんは・・・ッ。

喉元まで出かかって抱き寄せられた腕に強く力が籠もった。はっと仰いだ私を幹さんは無言で制し、筒井君に目を眇める。

「考えたこともねぇな、本物だの偽物だの。・・・女が欲しい訳じゃねぇよ。俺にはイトコがいればいいってだけだ」

「そーいう自己満足をニセモノって言うんだろ?アンタがいなくなった時の糸子さん、ゾンビよりひどい顔してアンタは帰ってくるって泣くんだよ。・・・あのままオレのものになっちゃえば良かったのに、我慢するの得意だからなー」

寂しそうにふやけた笑みが一瞬だけこっちに流れた。

「アンタのせいで糸子さんがすり減ってくの、黙って見てるつもりないんでもう」

私に真っ直ぐ掌を差し出すキミは、着ぐるみを脱いだふにゃふにゃの笑い顔をもう一度見せた。

「おいで糸子さん、一緒に帰ろ?大丈夫、狭いけどオレの部屋、ちょうど糸子さん一人分くらいの空きがあるからー」
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