黙って俺を好きになれ
使われていない倉庫だからなのか肌に触れる夜気が、フレンチのお店を出た時よりさらに冷えて感じた。春間近と言え、いつまでもいたら芯が凍えてしまいそうな。

同じくらい幹さんが放つ空気も冷ややかだった。

「茶番をお膳立てしてやったのはイトコに免じてだ。五体満足でいられるだけ感謝しろ、俺でなけりゃとっくに沈んでるぞ」

見えない切っ先が筒井君の鼻先に突き付けられる。

「金輪際、俺の女に近付くな。・・・話はそれだけだ」

「どーせ糸子さんにはおいしいコトしか言ってないでしょ。全部ぶちまけてみたらどーです?ヤクザの仕事っぷりとか」

ふにゃりと笑い返したキミ。

純情(キモチ)に付け込んで糸子さんにだけ捨てさせて、よく言ーますね。糸子さんが選んだんじゃなくて選ばせたんだろ。愛とか言わないでくださいよ?アンタのは偽物だから」
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