黙って俺を好きになれ
元旦は両親と三人で、歩いていける近所の神社にお参りに行き、無病息災と家内安全を真剣にお願いしておく。

「糸ちゃんに素敵な人が現れますようにっ」

拍手(かしわで)を打ち、そこだけ心の声が丸聞こえのお母さん。

「・・・本人に任せるしかないだろう」

隣でぼそっと呟いたお父さん。いつも静かで口数も少ないけどその分、淡々と叱られるときも褒められるときも言葉に重みがあるというか。

病気が分かったときは、医師に我慢が手遅れになるって真剣に怒られていた。家族に心配をかけたくないっていう責任感だとか、生真面目さだとかは娘と通じるものがあって。私はお父さんの遺伝子を多めに受け継いでると思う。・・・お母さんの天然ぽい大らかさと半々くらいだったら、ちょうど良かった気もするけど。

「糸ちゃんは自分から積極的にいくタイプじゃないから、そこは神頼みにしておかなくちゃ! ね?」

そこは『努力』って言われそう。乾いた笑いで返しておいた。




神さまはきっと全部は叶えてくれない。
だから贅沢なお願いもしない。
ささやかに。
今年も一年、みんなが健康で過ごせますように。
できるだけ笑っていられる一年になりますように。

エナも、筒井君も、私とは違う世界にいるあのひとも。どうか。

どうか。




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