黙って俺を好きになれ
住んでいる街から実家までは電車と路線バスを乗り継いで1時間半ほど。ちょくちょく帰るには億劫な距離で、3連休以上のまとまった休みにしか帰らない。

自分の部屋はベッドも本棚もそのまま、1Kのアパートにはラックとローテーブルを持っていったくらいで。正直いつまで一人暮らしを続けるか全く読めなかったし、処分しやすいパイプベッドを買い、あっちには電化製品も家具も最低限しか揃えなかった。

気に入りの雑貨や小物は一緒に引っ越したから、残った物だけだと寂しい感じ。それでも小学1年生からビジネススクール卒業まで過ごしたここはやっぱり落ち着く。

腰高の本棚には、お小遣いやお年玉で集めた文庫本や漫画が隙間なく並んでいて。あの頃は本は手でめくって読む・・・みたいな(こだわ)りがあったし、本屋さんに行って新刊を手に取った時の高揚感は代えがたい。・・・と今でも思う。

場所に限りがないなら今でもそうしたいところ。ベッドの上に寝転び、スマホの画面を指でスライドさせながら電子書籍をめくる。いつでもどこでも読める手軽さは少し困る。無尽蔵に増やしてしまいそうで。


『・・・本なんてクソの役にも立たねぇだろ』

あの頃の小暮先輩の口癖を思い出した。
最初は小馬鹿にしたように。
それがいつの間にか。
面白そうに口の端で笑いながら。
よくからかわれてた。

『トイレの花子かよ。図書室のイトコは』
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