黙って俺を好きになれ
もしこれがラインで誘われていたなら、どうしようかと散々悩んで返事をしたはずだ。でも直接交渉となるとこの場で答えなくちゃならないし、とんでもなく断りづらい。・・・・・・ふやけた顔には犬耳じゃなく、先の尖った別の耳が付いてる気がしてくる。

初詣を断ってしまったし、三回に一回はつき合ってくれってお願いされてもいたし。自分の気持ちがどう向いていくのかを確かめる意味で会ってみようか。

得意じゃない絶叫マシンに乗り込む決意を固めた心境で、お腹に力を込めた。

「それじゃ筒井君の行きた」

「悪いが俺が先約だ」

??!!

『は?!』

突然。左耳からスマホが抜き取られたかと思うと真後ろからそう聞こえ、心臓が飛び出そうに驚いて振り向く。

筒井君の行きたいところにつき合う、と言いかけたのを遮った低い声。振り向く前に誰なのか分かってしまった自分。黒いコートを羽織り、ダークな色目の三つ揃い姿で私を見下ろす小暮先輩。

『・・・誰です?』

スピーカーに切り替えたらしく、筒井君の声がよく通る。

「あとでコイツに訊け。・・・ああ、(おとこ)なら邪魔するような野暮はよせよ?」

『セ・・・ッ』

筒井君が上げた声にいっさい耳を貸さず、電源ごと切ったスマホを私に手渡したあなたは、やっぱり人が悪そうな笑みを滲ませていた。

「俺の前で男と話すなんざ、しばらく会わない内にずいぶん可愛い女になったもんだな、イトコ」
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