黙って俺を好きになれ
聞き違いかと思った。偶然なにかの名前が一緒だったとか。でも頭で考える前に反応してしまって。足が止まり声を発したらしい相手と目がぶつかった。すれ違いざまだったらしく、半身を傾けこっちを見下ろす三つ揃い姿の男性。他に連れらしい二人。

身長はたぶん180センチは軽くあって、153センチの私からしたらそれだけで威圧感を感じる。だけじゃなく。黒のスーツ、黒いシャツに白のネクタイ、髪もワックスでビシッと撫でつけられた風貌は、誰がどう見てもヤの付く職業の人。連れの二人も絶対にそんな感じの人。

蛇に睨まれたカエルみたいに固まったまま。ただ黙って見つめ合っている私達。まるでこちらを値踏みするように怪訝そうに視線が細まり、眉までひそめられる。・・・・・・・・・いえ、私なにもしてません・・・・・・・・・・・・。

目付きは鋭いけど、でも鼻筋も通っていて全体的に整った顔立ち。少し浅黒い肌が余計にワイルドというかアウトローぽいというか、猿とかこういう人達とか、確か目を合わせちゃいけないって両親から教わった気がする。もう遅いけど。

スラックスのポケットに突っ込まれてた片手を自分の顎の下にやる仕草で、その人が片眉を上げた。

「『図書室のイトコ』か・・・?」

図書室の糸子。まさかのフレーズに目を見開く。だって私をそんな風に呼んだのは一人だけ。時間が一気に高校生まで巻き戻る。

「・・・・・・小暮(こぐれ)せん、ぱい・・・?」

「やっぱりお前だったんだな」

突然思い出からタイムスリップして現れた先輩はニヤリと笑い、私の頭をくしゃっと撫で回す。
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