黙って俺を好きになれ
「え・・・。先輩、どうして、ここにいるんです、か」

まともに回復していない言語機能。思考回路もショート寸前。あまりに衝撃的な遭遇で、懐かしいメロディまで空耳で聞こえる。

「こっちの科白だ。その格好は仕事帰りか?実家(いえ)はこっちじゃないだろうが」

「あ、はい。職場が近くで・・・一人暮らししてるんです」

学校帰り、先輩に駅まで送ってもらった記憶の扉がぎこちなく開いていく。

「ったく驚かせるなよ。しかし俺もよく憶えてたもんだ。聞き覚えがある名前だと思ったんだが、よく見たら変わってねぇよお前」

ククッと喉の奥で笑いを殺す先輩。

「昔は尻尾が二つだったっけな」

そう言うと、今日はハーフアップにしてあった肩口の髪を一房掬い指で弄ぶ。
あの頃は耳の下で二つに結っていて、呼び鈴みたいによく引っ張られたっけ。

「眼鏡はどうした?」

「今はコンタクトなんです」

「まあ悪くない」

懐かしむように言う先輩は。面影があるような無いような。一つ上だったはずなのに、すごく大人びていて。知ってるのに知らない人。
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