黙って俺を好きになれ
言葉もなかった。間違いがあるのかと思うくらい。

「・・・なんか言ってよ」

自嘲じみた響きに彼の痛みが雑じっているようで。胸の奥が締め付けられる。

筒井君が望む答えはあげられないんだろう、それでも。拙くても。在るものだけでも伝えないと、きっともっと苦しめてしまいそうだった。できなかった。

引き結んだ唇を解き、おずおずと口を開いた。

「・・・・・・・・・筒井君がクリスマスに告白してくれたときは、恋人とかそういう関係になる自分が想像すらできなかったの。・・・でも多分、海に連れて行ってくれた日から少し変わったと思う」

息を逃しながら真剣に言葉を連ねていく。腕の力が少し緩んだけど解放はしてくれない。

「・・・一緒に出かけるのは楽しいし、子供みたいなことを言われても許せるし、こういうのが積み重なっていったら彼女になりたいってはっきり思えるかもしれない、けど」

「・・・けど?」

耳許でした声に無意識に体を震わせた。この先を言えば、少なからずなにかが壊れる。壊したくはなかった。後悔しそうだった。それなら先輩に二度と会わないと今すぐに電話をかけ直せばいい。それで何も壊さずに済む。間違ってない、分かってる、のに・・・!

どんなに上書きしようとしても消せない。書き換えられない。
あのひとの特別でいたい気持ちが。
私にだけ笑ってほしい気持ちが。

嘘を吐けない。
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