黙って俺を好きになれ
ひとしきり口の中を浸食し尽くされ、やっと離されたときには骨抜きにされていて。先輩に抱き込まれたまま、どうにもならない。

「幸町に回せ」

「・・・承知しました」

運転手さんとの短い会話が耳に届いた。どこに行くのか見当もつかない。どこでもかまわないと。ふわふわした頭の中で思った。

「イトコ」

呼ぶ声が優しかった。返事の代わりにぼんやり体をすり寄せる。

「・・・全くお前は。俺にも限度ってものがあるんだぞ」

苦そうに笑った気配がした。意味を訊き返そうか考えているうちに、腕の中の安心感からか微睡みに飲まれてく。やがて。意識はぷつりと途絶えていた。




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