黙って俺を好きになれ
次々と落ちてきた単語の意味をひとつずつ解いていき。目を見張ってそのまま固まった。

先輩も私を好き、だった・・・?

青天の霹靂(へきれき)。自分が恋をしていた自覚さえなかったのだから、他人の機微にも疎かったとは思う。思うけど。

「・・・・・・うそ・・・」

勝手に口から零れていた。

「なんだ、その幽霊でも見たような(つら)は」

眉を顰め、少し不機嫌そうなあなた。

「俺と関わったところでロクでもねぇから黙ってただけだ。まあ・・・お前にしてみたら今の俺のほうが、よっぽどだろうがな」

伸びてきた指が顎の下を捕らえ上向かされる。

「昔みたいに傍にいろ、それだけでいい。・・・お前がいれば俺は」

ふと記憶が重なった。同じ表情(かお)だった。自嘲の入り混じった寂寥(せきりょう)の眼差し。

鼻筋が通った野性味もある整った顔が近付くのをそっと目を閉じた。一度啄んで離れた唇を待つように。
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