こじらせ社長のお気に入り
最初に任された仕事は、取引先の名刺の整理だった。まあ、もっと言えば、仕事相手の名前を覚えるということ。いただいた名刺は全てデータ化されていて、それぞれに特記事項が加えられている。

「ここのところ手が回っていなかった分があるので、入力をお願いしますね。ああ、それから社長はいただいた名刺を上着のポケットに入れっぱなしなんてことをしでかすので、整理できていないものが数枚。これもお願いします。今後は名刺をいただいたら、笹川さんの方で預かるようにしてくださいね。それから、必要と思われる情報は、どんどん追加していってください」

あくまで丁寧な口調の副社長だけど、社長に関することになると、少々毒が入り混じるらしい。

「わかりました」

そんなやりとりをしているそばで、市井さんがくすくす笑っている。

「社長、相変わらずですね」

「ええ。あの人には、ほとほとお手上げ状態でしたから。笹川さんが入ることで、よくなることを期待しています」

副社長と市井さんから、ある意味熱い眼差しを向けられてしまう。

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