こじらせ社長のお気に入り
瑞樹が、チラッとこちらを見ているのが伝わってくる。俺はあえて何も言わなかった。

「でも、今のお前はないな」

さっきまでとは打って変わって、冗談まじりの口調になる。

「完全に、女にだらしがないやつに成り下がってるぞ」

「……反論はできないような……」

「身に覚えがありまくりだろうが。でも、彼女、仕事をしているお前のことは、本当に尊敬している。本当のお前を見せたら、向き合ってくれるかもな」

「……かな。でも、本当の俺なんて、どんなだっけかなあ……」

「未だに引きずってるのか?」

瑞樹の問いに、〝引きずってる〟という言葉の意味を考える。

「いんや。まったく」

気怠く首を横に振る。

「それなら、もう前に進めよ。会社には俺もいるし、他にもいろいろ任せられる優秀な人材がそろっている。もっと力を抜いて、自分のことも考えてみろ。強引でも、彼女を秘書に引っ張ったことを無駄にするな」


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