必殺スキル<子守り>だけで公爵夫人になっちゃいましたが、ほのぼの新婚ライフは幸せいっぱいです
「平民の身で公爵夫人となるのは大変なことさ。基本の教養から社交界のマナー、領内のことはくまなく知っておく必要があるし、なにより大切なのは……」
「大切なのは?」

 エイミはオウム返しに聞き返す。

「ひとつしかないよ。夜の作法さ。ハットオル家に養子は多いが、結婚した以上はジーク様の子を産んでもらわなきゃならん。いいかい、私がよ~く教えてやるから、あんたは言う通りに……」
「もう! お婆ちゃんてば、昼間からなんて話をしてるのよ。エイミちゃん、唖然としてるわよ」

 あわてて、ゾフィー婆やの口を塞いだのは若い娘だった。
 
 栗色の髪と瞳、鼻の頭にポツポツと浮いたそばかすが愛らしい。おっとりと、優しげな雰囲気だ。歳はエイミと同じくらいだろうか。

「初めまして。孫娘のキャロルです。お手伝いで、三つ子達の乳母をしてたのよ。いまは自分の子と、このお婆ちゃんのお世話で手いっぱいなんだけどね」

 キャロルは困ったような顔で、ぺろりと舌を出す。

「世話なんか頼んどらんね」

 ゾフィー婆やが毒づく。

「でも、私が見ていないと、すぐにこの城に帰ろうとするんだもの。本当に手がかかるんだから」
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