ぜんぶ、嫌いだけど
「趣味が悪い」
「そうかな?」
夏の日差しがジリジリと肌を刺す。
それなのに涼しい顔をして、汗一つ流さずに立っている夏那が憎らしい。
「だって、ちーちゃんのその本音って心配してくれてるってことでしょ」
ガードレール越しに立っている彼女の腕が伸びてくる。
「してない」
まるでそれは、自己防衛のように出た言葉だった。
「ねぇ、ちーちゃん」
華奢な指先が私の喉元に触れる。
真夏だというのに夏那の手は冷たくて、長い爪先は喉を刺されているみたいに感じた。
「私のこと、好き?」
「嫌い」
だからこそ、夏那は私を手放さない。
甘い言葉ばかりを与えて、裏で毒針を持っている人たちではなくて
見える本音を晒す私を欲している。
アンタのことを嫌いだと思うのに、私も結局離れられない。
唯一、真正面から私を好きだと言う存在。
好きと嫌いな私たちは、互いを必要としてしまう。
「ちーちゃん、大好き」
うだるような暑さの夏と、私を呼ぶ甘ったるい声。
目眩がするような青空と、涼しい顔をした彼女。
ぜんぶ、ぜんぶ嫌いだけど
「私は————」
今日も彼女が欲しかる言葉を言ってしまう。
完


