ループ10回目の公爵令嬢は王太子に溺愛されています

教師が木刀を掴み取ると同時に、アルベルトが素早く切り込んでいく。

力強い一打一打を受け止めるのが精一杯の教師に、反撃する余裕などないことは誰が見ても明らかだった。


「面白そうな展開になってきたわね。もっと近くまで行きましょうよ」


ルイーズに手を引かれ歩きながら、ロザンナはアルベルトに対して苦笑いする。どうやら彼は教師の態度が癪に触ったらしい。

そばまでくると打ち合う木刀の音に圧倒され、アルベルトの俊敏な動きにすっかり目が離せなくなる。彼は間違いなく強い。

アルベルトの木刀からゆらりと陽炎が立ち昇る。わずかながらもその眼差しに赤い輝きが宿ったのを見て取り、ロザンナは思わず息をのむ。


「……まさか」


ふっと、アルベルトに違う人間の眼差しが重なった。

アカデミーに入る前、診療所の裏の林で助けたあの男性を思い浮かべながら、ロザンナは少しずつ前進する。

別人のはずだと考えるも、心が騒めいて落ち着かない。もっと近くでよく見たいと可能なだけ近づいていくと、「そこまでだ」と息も絶え絶えに教師から声が上がった。

言葉で聞けば強気だが教師は尻餅をつき、アルベルトに見下ろされる形で鼻先に木刀の先端を突きつけられていた。

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