時の止まった世界で君は
手早く、針を刺し自然と垂れてくる髄液を数滴採取する。

そして、薬の入ったシリンジを針に繋げた。

「じゃあ、これからお薬入れていくよ。痛くないけど、少しジンジンしてくるかもしれないからね。」

……コクン

麻酔で痛みが無いことで、少し安心した様子だったなつにまた不安の表情が戻ってくる。

「大丈夫だよ。なつなら頑張れる。」

そう微笑むと、なつはまた小さく頷いた。

「じゃあ、入れるよー」

ゆっくり時間をかけてピストンを押していく。

最初の方は、大丈夫そうだったものの、徐々になつの表情が曇っていく。

「なつ、大丈夫?」

そう聞くと、なつはふるふると首を横に振る。

「……あつい…………ジンジンするの、いやあ…」

この治療は、多少の熱と痛みとはまた違う感覚が発生する。

大人や、ある程度大きい子どもなら我慢出来ることも多いが、特に女の子はこれを嫌がる子が多い。

「ごめんね、もう少しだよ。あとちょっとで終わるから。」

看護師さんに、なつの足元を撫でてもらうように指示を出し、残りの薬剤を入れていく。

「…………よし、終わり!」

そう言うと、なつは緊張がとけたのか、逆に泣き出してしまった。

「よしよし、よく頑張った。偉かったよ。」

止血処置をしつつ、なつに声をかける。

全ての処置を終え、なつの頭を撫でると、なつはこくんとまた小さく頷いた。

「上手に頑張れてたよ。偉いね。」

ぐすぐすとまだ鼻をすするなつ。

これで今日もまた一つ山を越えられた。

毎日、毎日小さな山を超えていけば、きっと最後には病気にも打ち勝てるから。

安堵の気持ちとともに笑顔が零れた。
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