クールな騎士団長は獣な本能を初夜に目覚めさせる
 扉が完全に閉まると、母は私を抱き締めたままホロホロと泣いた。父を前に取った凛とした態度とは一転、母の脆さや弱さが露呈する、切ない姿だった。
『父親としての責任なんて、いらない。私はそんなものが、欲しいんじゃないわ。……マリア、あなたはルドルフ様と私の愛の証よ。……大丈夫、私はあなたがいれば生きていけるわ』
 さらに、母が自分に言い聞かせるように呟いた「大丈夫」から続く言葉が、私の胸に一層切なく響いた。母にとって、私という存在は、かつての愛の遺産なのだ――。
 愛した人の面影を継ぐ私は、愛し合った当時を甘やかに思い出させる反面、苦々しい感情を抱かせたこともあっただろう。
 ……お母さん。私があなたのもとを離れ、修道院に身を寄せてから八年。
 ほんの少し大人になった今だから、わかることもある。子供だった昔、お父さんがいないこと、町の人との交流を避けて隠れるように暮らすこと、そしてなによりあなたが私に対して一歩引いた態度を崩さないこと、それら全てに私は不満を募らせて、あなたにぶつけた。
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