きみがため
「真菜ちゃん!」

すると、すぐ近くから声がした。

振り返れば、顔なじみの看護師の近藤さんが、廊下の中腹で人好きのする笑顔を浮かべている。

どうやら、夢中で光を探すあまり、彼女の前を通り過ぎてしまったみたい。

「近藤さん。光、見ませんでしたか?」

近藤さんに声を掛けてから、私は凍り付いたように足を止めた。

彼女の向かいに、思いもしなかった人物がいたからだ。

それは、桜人だった。

午前中の授業が終わって、直接ここに来たのだろう。紺色のブレザーにズボン。

制服の上に、グレーのマフラーを巻いている。手にはスクールバッグの他に、パンパンになった紙袋が握られていた。

――どうして、桜人がここに?

桜人は束の間私と目を合わせたあと、すぐに気まずそうに伏せた。

微妙な雰囲気の私と桜人の様子に気づいたのか、人のいい近藤さんが、間を取りなすように明るい声を出す。
< 158 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop