鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛

 着物に詳しくないからよく分からないが、こちらも大旦那だけあって、これまた上品で高級そうな落ち着いた藍色の着物に身を包んだ、五十代くらいの渋みを増したイケオジを絵に描いたような長身の父親は、母親に寄り添うようにして深々と頭を下げて出迎えてくれている。

 歩み寄った隼が、「ご無沙汰しています」とにこやかに告げて挨拶しかけるも。

「そんな堅苦しい挨拶はなしにしてちょうだい。水臭いわぁ」
「そうだよ。隼くん」

 蔵本の両親が口々にそう言ってきた後で、ぱあっと華やかに咲き誇る向日葵を彷彿させる笑顔を綻ばせた蔵本の母親。

 その姿に、女将だった亡き母の着物姿の面影が重なって目頭が熱くなる。

 それをなんとか抑えつつ簡単な挨拶を交わして、蔵本の両親の案内で店の中へと足を踏み入れた。

 今日ここに訪れたのは、隼の祖母の雅さんが私のために着物を何点か仕立ててくださっていたのを受け取りに来たためだった。

 雅さんは、昔からなにかあると着物を着られているほどの着物好きらしけれど、孫は男ばかりということで、いつか孫の嫁に着物をプレゼントするのを楽しみにされていたらしい。

 昨年念願叶って、隼の兄嫁にも幾つもプレゼントされているらしく、隼が『結婚を前提に交際をしている女性と一緒に暮らしたい』と報告した数分後には、『くらや』に来店の予約をしていたというのだから驚きだ。

 まだ正式に婚約した訳でもないし、まだご挨拶さえできていないというのに、そんな高価なモノなど貰えない。隼にもそう伝えたのに……。

『“先のない年寄りの我儘だと思って受け取ってほしい“と言われたら突きかえせないでしょう?』

そう返され、ご厚意に甘えて頂戴することになったのだけれど。その直後。

『あの時の兄の気持ちがよーく理解できましたよ。僕も侑李さんの着物姿早くみたいなぁ』

と、やけに嬉しそうな表情の隼が零した呟きの意図を私は全く理解できずにいた。
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