鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
店内には、衣紋掛《えもんか》けにかけられた職人が手掛けた一点物の豪華絢爛な色打ち掛けや白無垢に始まり、留め袖に普段使いの単衣や浴衣、小さな赤ちゃんに着せる肌着なんかも展示されていて。
棚には色んな色や柄の反物がズラリと並べられている。
帯や履物は勿論、髪飾り等のアクセサリーといった小物や、梅雨の季節に欠かせない雨よけのコートや着物に合いそうな和柄の傘なんかも置かれているようだった。
「それにしても、お綺麗なお嬢さんねぇ」
「はい。僕には勿体ないくらいの自慢の彼女です」
「////」
「まぁ、隼くんたら惚気けちゃって。ふたりともお似合いで羨ましいわぁ。うちの涼も速くこういうお嬢さんを紹介してくれるといいんだけど……。一度もないのよ? あ、良かったらお友達紹介してくださらない?」
「////……え、あ、いや、あはは」
「よさないか、亜希子《あきこ》。困ってらっしゃるじゃないか」
「そうだぞ、お袋。そういうのいいから」
「まぁ、男同士で結託しちゃって。ヤダわぁ」
私たちは、店の奥に設《しつ》えられている上質そうな応接セットのソファで寛ぎながら、既に用意してくださっていた、四季折々の花々があしらわれた色鮮やかな薄紫色と薄桃色の訪問着を二点と浴衣とを眺めつつ、お手入れなどの説明を聞いたりしながら、和やかに談笑していたのだった。
周辺には、いくつか同じような応接セットが設らえられていて。
それぞれに簡易的な仕切りがなされ、他のお客様の視線を気にせず着物を選べるよう配慮されているようだ。
少し離れたところには、もう一組のお客様がいらっしゃるようで。そのお客様はお帰りなのか、ゆっくりとこちらへ歩いてくる気配がする。
三十代くらいのスラリとした綺麗な女性と、後継者である蔵本の一番上の兄らしき着物姿の男性とがちょうど仕切りの途切れたところに差し掛かり。
そこで女性がおもむろにこちらへと顔を向け、艷やかなルージュに彩られたぷるんとした唇が美しい弧を描いた。そして続け様に。
「あらぁ、やっぱり隼だったのねぇ?」
微かに漂ってきた甘ったるい香水の香り同様の甘ったるい女性の猫なで声が私たちの談笑を邪魔するようにして放たれた。
ーーもう嫌な予感しかしないんですけど。