鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛

 隼と一緒に住むマンションを出て十分ぐらい経った頃、私は隼に不意に名前を呼ばれて。

「侑李さん。なんだか顔色が優れませんが大丈夫ですか?」
「……え? あぁ、うん。パーティーなんて初めてだからちょっと緊張しちゃって。情けないなぁ」

 一瞬、ドキリとしたものの、隼に余計な心配をかけたくなくて咄嗟に思いつきで言葉を放ってみたものの、笑みを浮かべた顔が引きつっているのが自分でも分かるくらい、お粗末なモノだった。

 それを隼が気づかないわけもなく。

「侑李さん、やっぱり蔵本に送らせるのでマンションに帰っていてください。僕はここからタクシーで向かいますので」

 案の定、心配そうな表情の隼に余計な気遣いをさせてしまう結果となった。

 ーー何をやってるんだろう、私は。

 隼の婚約者で、近い将来結婚して隼のことを支えなきゃならないのに。

 ーーこんなの、私らしくない。

 ようやくいつもの調子を取り戻すことのできた私は、不安を払拭するためにも、明るく元気な声を放っていた。

「何言ってんのよ? ちょっと緊張して、昨夜なかなか寝付けなかっただけだから大丈夫だってば。本当に隼は心配性なんだから。そんなに過保護にしちゃったら、私つけあがっちゃうわよ?」

 けれど隼は、やっぱり不安げで、今にも泣き出しそうな表情で私のことを見やってから、私のことをぎゅうっと自分の胸に抱き寄せて。

「侑李はいつもそうやって無理ばかりする。僕に心配させまいとしてるのがバレバレ。僕が何を言っても聞いてはくれないだろうけど、これだけは約束してほしい。何があっても僕の傍から離れないこと。いい? 何があってもだよ? そうでないと、侑李のことを守れないから」

 ふたりきりの時にだけ砕けた口調だったはずが、気づけばいつの間にか完全に砕けたモノになっている。

 隼の必死さが伝わってきて、隼も同じように不安でいるのが分かった。

 それに隼の不安は、全て私に関してのようだ。

それがどうしようもなく嬉しいなんて思ってしまうなんて、こんなときに不謹慎にもほどがある。

 でも嬉しくて堪らないのだからどうしようがない。

 嬉しさを隠しきれない私は、さっきまでの不安なんか忘れて、元気いっぱいで、やけに素直な言葉を返していた。

「うん! 約束する。 絶対に離れない。隼にぴったりくっついてる」
「はぁ、素直な侑李があんまり可愛いから、帰りたくなってきた」
「ダメでしょう? 要さんの代わりなんだから」
「え~やだな~」
「もう、隼ってばなに子供みたいなこと言ってんのよッ!」
「男は好きな女性に甘えたくなるものなんだからいいでしょう? 少しくらい甘えても」
「帰ったら甘やかしてあげるから今は我慢しなさい」
「は~い」
「お前ら、バカップルに益々磨きがかかってきたなぁ。キショいから俺の居ないところでやってくれ」

 どさくさ紛れに甘えてくる可愛い隼とのやりとりに、呆れ果てた声で茶々を入れてくる蔵本。

 三人でなんやかんや言っているうちに、私たちを乗せた車はいつしか目的地である鳳凰堂デパートの駐車場へと到着していた。
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