鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
ちょうどそのとき、隼のスマートフォンのバイブ音が静かな車内に響き渡った。
何か急用かもしれないと思ったのだろう隼が慌ててジャケットの胸元のスマホを取り出している。
今の今までずっと隼の膝の上で、隼のあたたかな手によって包み込まれていた私の手から隼のぬくもりが消えて、途端に心細くなってくる。
こんなの自分らしくないって思うのに、私の中で、隼の存在が余りにも大きくなりすぎていて、自分じゃコントロールなんてできない。
きっとそれが表情に出てしまっていたのだろう。
スマホを片手に発信者を確認した直後に、私のことを安心させようとしてか、ニッコリとあのキラースマイルを向けてから、自分の胸に私のことを抱き寄せてくれる隼。
その優しさが隼の体温と一緒に伝わってくるようで、途端に安心感に包まれる。
「僕の命に代えても守るから、僕のこと信じて頼ってくれる?」
そこに隼の甘やかな声音が耳に届いて。
どんなに些細なことでも見逃さずにいてくれる隼の優しさがどうしようもなく嬉しくて。
思わずジンとして泣きそうになりながらも、なんとか堪えることができて、私は「うん」と答えることもできた。
そうしてすぐに通話の妨げにならないように元の位置に戻った私の手は、隼の手によってしっかりと包み込まれていて。
程なくして話し始めた隼の口調から、やっぱり自社からではないのだと分かった途端、また薄れたはずの不安が押し寄せてくる。
「ええ、今から取引のある鳳凰堂デパートの創立記念パーティーに出席するのですが、その前に諸用がありますので、会場であるホテルに着くのは一時間後になると思います」
さっき隼から離れる間際、漏れ聞こえてきた声が女性だったからだ。
しかもその女性が開口一番に放った言葉が『隼』だったことに、今度は違う種類の不安が浮上してくる。
それに加えて、話が進むにつれ、私に通話内容が聞こえないようにするためか、通話を中断して。
「すみません、少し外します」
何やら慌てたように、隼はそれだけ言うと、そそくさと車から降りてしまったのだった。
その後、とってつけたように、蔵本が隼のフォローのつもりなのか。
「そんな泣きそうな顔しなくても、隼が必死になるのはいつだって可愛い婚約者のためなんだから安心しろ」
なんてことを言ってきて。
「隼のこと信じてるので、余計なお節介は無用です」
「あっ、そう。とてもそうは見えねーけどなぁ」
「蔵本さん、老眼じゃないですか?」
「んなわけねーだろ? こんな若いイケメンが老眼なわけあるかっつの」
「イケメンに見える時点で老眼だと思いますけど」
「お前なぁ」
時折繰り出してくる余計なお節介発言を放ってきたけれど、速攻で跳ね返した。