鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
ーー切り出すなら今だ。
そう思った僕は、おそらく無意識のうちに本音を漏らしたのだろう侑李自信にも、そのことに気づいてもらえるようにと、声を放ったのだけれど。
「急に仕事辞めちゃったから、『社会に取り残されてるような気がすることもあったりする』よね。そりゃそうだよ」
ほんの少しだったけれど、侑李から本音を聞き出しことができて、僕は少々浮かれていたんだろう。
それが態度に出ていたに違いない。
案の定、侑李が突っかかってきた。
「何よ? 何が言いたいの?」
「本当は、臨月の間際まで仕事続けたかったんじゃないの?」
「……いくら続けたくてもしょうがないじゃない。あれ以来、隼以外の男の人が傍に来ると、怖くて震えが止まらなくなっちゃうんだからッ」
そうしていつものように、僕の言葉に異議を唱えようと、食ってかかってきていた侑李の様子が一変する事態となって。
侑李の身体がみるみるうちに小刻みに震え始めた。
どうやらホテルでの事を思い出してしまったようだ。
僕は、震えだしてしまった侑李の身体を包み込んでいる腕に、ゆっくりと力を込めながら、なるだけ冷静にと自分に必死に言い聞かせていた。
その一方では……。
ーーやっぱり、まだ、無理だったんだろうか?
否、僕だけじゃなく、侑磨さんもお義父さんも、恵子さんだって傍に居てくれるんだし、なんとかなるはずだ。
ーーいいや、絶対になんとかしてみせる。
相変わらず侑李のこととなれば、自分のコントロールが利かなくなってしまう僕のなかでは、相反する感情が、ひっきりなしに入り乱れていた。
「侑李、嫌なこと思い出させてごめん。大丈夫?」
「うん。隼が居てくれるからもう大丈夫」
ただ幸いだったことは、侑李がこうなってしまったときには、いつもこうして僕が抱きしめて頭や背中を優しく何度か擦っていると、不思議と、すぐにおさまってくれることだった。
不謹慎なことだが、そのことで、僕がしっかりしなくちゃならないんだって、そう思うことができていたし、自信にもなっていた。
いつもの如く、侑李のお陰で自分を取り戻すことのできた僕は、落ち着きを取り戻した侑李に向けて、ここでやっと、若女将のことを切り出すことができたのだ。
「実は、お義父さんと侑磨さんに、『侑李に『橘』の若女将として手伝ってもらえるように説得してほしい』って、頼まれたんだけど。どうかな?」