鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
どれほどの時間、そうしていただろうか。
隼によって絶えることなく与えられる、なんとも甘やかな愉悦に追い詰められて。
逞しい隼の腕の中で淫らに身体をくねらせることしかできずにいたはずの私の身体が、いつしかゆっくりと傾き、畳の上に敷かれた布団へそうっと優しく横たえられていた。
涙で霞んでしまったおぼろげな視界の中で、蒼白い月明かりに照らされた、なんとも妖艶で圧倒的イロカを纏った隼が片手で煩わしげにネクタイを緩める姿が徐々に浮かび上がってくる。
その様を私は高鳴る胸を上下させて荒い呼吸を繰り返しながら、ただ見つめることしかできないでいた。
甘やかな愉悦に何度も追い詰められた余韻のなかで、余裕がなかったのも事実だし。
蒼白い月明かりに照らされた隼の姿が息を呑むほどに色っぽくて綺麗だった、というのもある。
けれども本当は、私自身が隼のモノだっていうことをネクタイで縛って知らしめてほしいーー。
そう思っていたのを言い出せずにいたのだった。
というのも、隼が何もかもを曝け出してくれた、今夜のように月明かりが綺麗だったあの夜以来、隼から拘束されたことは一度もない。
時折、自分から『拘束してほしい』と強請ってはいたけど、どうも敬語口調の今夜の隼には言い出しにくかった、というのが本音だ。
否、本当は、自分がどうなってしまうか分からなくて、怖かったのかもしれない。
ただでさえ敬語口調の隼に、こんなにもときめいてドキドキしているというのに。
その上拘束なんてされたら、ドキドキしすぎて、心臓がもたないかもしれないし。
なにより、自分が一体どんな風に淫らに乱れてしまうか見当もつかないものだから、怖かったんだと思う。
いつもは後先考えずに突っ走ってしまうクセに。
今夜は蒼白い月明かりのせいか、はたまたここが老舗料亭『橘』だという背徳感からか、いつになくおしとやかな思考になってしまっているようだ。
そういうわけで、いつになく尻込み状態の私は、自分の中の僅かに残っていた理性と欲求との狭間でゆらゆらと揺らめいていたのだった。
そんな私のことをふっと柔らかな微笑を零した隼から、私の考えなんてお見通しだとでもいうように、なんとも意地悪な言葉が降ってきて。
「そんなに物欲しそうに見つめてきて、どうしました? もしかして、このネクタイで僕に縛ってほしいんですか?」
なんとも甘やかな声音で唆すようにして、隼に囁きを落とされてしまった私は、あれほど躊躇していたのが嘘だったかのように、あっさりコクンと無意識に頷いてしまっていた。
その様子を目にした隼が一瞬、ハッとして息を呑むような素振りを見せてから、再び聞き返してきた。
「侑李さんは、もう僕の奥さんなのに、それでもまだ、僕のモノだってことをネクタイで縛って身体に教え込んでほしいんですか?」
いつもの私なら間違いなく、焦らさないでと詰め寄っていただろう。
けれども今夜はやっぱり蒼白い月明かりのせいかなんなのか、やけに素直にしとやかに、
「うん。ネクタイで縛って、隼のモノだって身体に教え込んでほしい。だからお願い。早く縛って。ねぇ、隼、お願い」
両手を隼に向けてめいっぱい広げて、自分のすべてを隼に差し出すようにして希うのだった。