【紙コミックス①②巻発売中】鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛

 この状況を、どうしても受け入れることができないでいる私の、この複雑な心情を。

 まるで鬼畜は汲み取って不安な気持ちを取り除いて、鬼畜に反発する私の心をなんとかして宥めようとするかのように……。

「今日、侑李さんの手の甲に口づけた時、正直、驚きました。これまで何人もの女性とこうして肌を重ねてきましたが、ここまでしっくりと肌が馴染んだのは初めてです。さきほど、不感症だと言っていましたが、それはきっと、その相手とは相性が悪かったか、その相手に女性を悦ばせるほどの手腕がなかっただけでしょうから、心配には及びません。

これから、僕が侑李さんに女性としての喜びをたっぷりと教えて差し上げますから。侑李さんは、ただ僕に身を任せてくださるだけでいいんです。そんなに怖がらないでください」

 さっきの意地の悪い口調とは違って、あの優しい甘やかな声音で、耳元で甘く囁かれてしまえば。

 いくら優しい言葉を優しい甘やかな声音で囁かれようとも、こんな鬼畜のことを信じて堪るか、そう思うのに……。

 これまで、散々、意地の悪い口調で屈辱的な言葉と、訳の分からない不可解なことを聞かされてしまっていた所為か。

 ――ほんのちょっと、爪の先ほどくらいなら、騙されたと思って、信じてみてもいいのかな。

 鬼畜によって、不意打ちでお見舞いされてしまった、思いのほか優しい言葉に、ちょっとどかしてるとしか思えないようなことが、頭の片隅にチラチラと浮かんできてしまう。
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