【完】スキャンダル・ヒロイン
「冗談じゃなかったら、どうする?」

少しだけ腰をかがめて、私の顔へ自分の顔を近づける。
頬を手で押さえて触れられそうな位顔が近づく。その時真央の大声が室内に響いた。

「おいッ!静綺!茶はまだか?!」

「残念、邪魔が入った」

そう言って昴さんは私の手からお茶の入ったおぼんを取り上げて、皆の輪の中へ戻って行った。

残念じゃないっての。
絶対に私の事をからかって反応を見て楽しんでいる。

この腹黒王子め~……。

でもこのドキドキは何か違う気がする。このドキドキやときめきはきっと私じゃなくても、大半の女の子が大滝昴にされたら感じるごくごく普通の反応。

特別な物ではない。

けれど……私が真央の何気なく取る行動にドキドキしたり、動揺してしまうこの気持ちは――。これは全然普通じゃない。

今まで私は俳優である姫岡真央が好きだと自分に言い聞かせてきた。そしてそれは本当の事だ。

けれど気が付けば、あの横顔から目が離せなくなっていて…こちらへ向ける笑顔を見つけると嬉しくなる。意地悪をされて、言い合いをしているとその時間さえ楽しいと感じて、胸が高鳴って行く。

ドラマの共演者の中に元彼女がいるのを知った時にショックを受けたのも、これは嫉妬だ。


いつの間にか私の中に自然に入り込んできて、私の心をこんなにも揺らす。
もう何とも思っていないなんて言えない状況になっていた。まるでこれは病気。こんな気持ち…もう既に手遅れだ。
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