【完】スキャンダル・ヒロイン
物腰が柔らかい?王子様みたいな人?
昨日の事を思い出せば、こんなに暑い夏日だというのに寒気が止まらない。
そして改めて思う。テレビのイメージ戦略というのはとても恐ろしいものだ。
「サインとかは無理だと思う…」
’お前やっぱり俺のファンかよ。’と得意になって悪魔のような笑顔を見せるのが目に見えている。
それか’気持ち悪い女だな、お前は。’とあの美しい顔を歪ませるに違いない。
けれどりっちゃんは偉く興奮した様子で「羨ましい」と繰り返すばかりだった。もしも代わって頂けるのならこのバイトは放棄したい!
「あ、りっちゃん私バイト先に着くから電話切るね。
週末は休みだって話だから暇な時遊ぼう?」
「オッケー!芸能人の話聞かせてね」
「それは守秘義務というものがあって…」
私の言葉も聞かずにりっちゃんは電話を切った。
芸能人の話…か。テレビの中の人がテレビのままの性格でないというのは、昨日の姫岡さんの様子を見て知った。
当たり前かもしれない。イメージを売っている商売だ。芸能人じゃなくたって普通の私達にだって裏の顔はあるもんだしね。
けれど、バイトと言う名目でお金を貰い働くのであれば、共同生活上余計な波風は立てずに平穏に過ごそう。私は芸能人に会いに行くわけではない。自分の仕事を責任持ってしていれば、あの鬼のように恐ろしい姫岡さんだって何も言うまい。
なのに………。
「げぇ、マジで来たのかよ。断るだろ、フツー」
やけに掠れた声が寮に入った瞬間響いた。
昨日も思った事だけど、特徴のあるハスキーボイスだ。耳に残りやすいというか…。印象的だと言うのならば、それさえも芸能人にとっては武器になるのだろう。