【完】スキャンダル・ヒロイン
「おはようございます…」
「おお、おはよう。今日からよろしく」
雑誌に目を落とす強面の警備員の田所さん。通称たっさんは昨日山之内さんから帰りに紹介された。
つーか必要か?!こんなほぼ人の住んでいない幽霊寮に警備員さんなんか。
たっさんは競馬雑誌に真剣に目を落とし、大きな欠伸をした。
「よろしくお願いします…」
そして何故か…寮の警備室前でわざわざ待ち構えていたのは、姫岡さんだった。やけに掠れた声の正体。
通せんぼをするように長い脚を壁へと突き立てて、行く道を阻む。
さっき言われた’マジで来たのかよ’はスルーする事にする。無言のまま、彼の足の上を跨いで通ろうとすると、次は足を引っかけてきた。
「何する…!」
「お前何無視してんだぁ?!
普通人に会ったら挨拶をするのが礼儀つーもんだろうが?!」
はぁ?!
あなた、今私に挨拶しましたっけ?!
それとも
’げぇ、マジで来たのかよ。断るだろ、フツー’があなたの挨拶なんですか?
余計な波風を立たせずに平穏に過ごそう。さっきまでの誓いががらがらと崩れていきそうだ。
「おはようございます…姫岡さん…」
「フンッ。最初っからそう言えばいいんだ。」
そう言って何故か不機嫌そうにその場からすたすたと歩いて行ってしまう。無駄な肉ひとつないその背中を蹴り飛ばしたい気持ちでいっぱいになったけれど、それは我慢しておく。
それより人が挨拶をしていると言うのに、何でそんな偉そうなの? 人に会ったら挨拶をするのが礼儀だと言うのならば、挨拶を返すのだって十分礼儀だと思うのだが…。
先が思いやられる。