かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
そんなことを考えて、ついぽーっと見蕩れてしまっていたらしい。
私の不躾な視線を受け、どこか訝しそうに眉を寄せた奥宮さんが小さく首をかしげた。


「どうかしましたか?」
「っあ、」


我に返った私は、慌てて唇を動かす。


「すみません。あんまり綺麗な顔だから、ついじっと見ちゃいました」


馬鹿正直に答えてからすぐに『しまった』と思ったけれど、一度口から飛び出したセリフはもうどうしようもない。
激しい後悔に苛まれる私の前で、奥宮さんは目を丸くしていた。

その顔がなんとなく、拍子抜けしているような毒気を抜かれたような、そんななんともいえない表情をしていることに気づいたから、今度は私も不思議に思って首を傾ける。


「……それは、どうも。立花さんこそ、お綺麗だと思いますよ」
「はあ……ありがとうございます」


今の自分の顔はくれはに似せているにすぎないので、奥宮さんがせっかく褒め言葉を返してくれたというのにまるで他人事な微妙な反応をしてしまった。

すると今度こそ彼は、ポカンと呆気にとられた顔をみせて。
かと思えば、堪えきれなかったように「ふっ」と吐息をこぼし頬を緩める。


「失礼。女性の外見を褒めて、そんなきょとんとした顔を返されたのは初めてだ」
「あ……あの、ごめんなさい……」
「いや、こちらこそ笑ってしまって申し訳ない」


せっかく和らいだと思った表情が、またすぐに無感情なものへと戻ってしまった。
もったいない。たしかに無表情でもこのひとはとても綺麗だけど、笑った顔の方がずっと素敵だと思うのに。
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