かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「このたびの縁談は、慎んでお断りさせていただきます。一応父には『気が合わなさそうだった』だとか当たり障りのない言い訳をしておきますので、奥宮さんもどうぞ適当になさってください」
最後まで言いきると、仕上げに深々と頭を下げた。
そのまま相手の顔を確認することもせず、さっさとこの場を去ろうとする。
なのに私の右手首を、後ろから掴んで引き留める存在があった。
「……待って」
掴まれた手は、それほど強い力じゃない。なのに耳に届いた声が思いのほか切実な響きをもっていて、ほとんど反射的に動きを止めてしまう。
それでも、振り返るまではしなかった。するとまた、背後の人物が言葉を紡ぐ。
「申し訳ない。俺の発言で気を悪くしてしまったのなら、謝る。どうか、またこっちを向いて欲しい」
さっきと同じ、予想以上に必死な声だ。直前までは自分のことを『私』と言っていたのに、一人称が『俺』に変わっている。いつの間にか、敬語でもなくなっているし。
こっちが素、なのだろうか。もしかして奥宮さん今、結構本気で焦ってる?
世間一般的には、丁寧な口調で謝罪される方が印象は良いのかもしれない。
だけど今の私にとって、奥宮さんの素の言葉遣いは先ほどまでの薄っぺらい敬語より、よっぽど心に訴えるものがあった。
最後まで言いきると、仕上げに深々と頭を下げた。
そのまま相手の顔を確認することもせず、さっさとこの場を去ろうとする。
なのに私の右手首を、後ろから掴んで引き留める存在があった。
「……待って」
掴まれた手は、それほど強い力じゃない。なのに耳に届いた声が思いのほか切実な響きをもっていて、ほとんど反射的に動きを止めてしまう。
それでも、振り返るまではしなかった。するとまた、背後の人物が言葉を紡ぐ。
「申し訳ない。俺の発言で気を悪くしてしまったのなら、謝る。どうか、またこっちを向いて欲しい」
さっきと同じ、予想以上に必死な声だ。直前までは自分のことを『私』と言っていたのに、一人称が『俺』に変わっている。いつの間にか、敬語でもなくなっているし。
こっちが素、なのだろうか。もしかして奥宮さん今、結構本気で焦ってる?
世間一般的には、丁寧な口調で謝罪される方が印象は良いのかもしれない。
だけど今の私にとって、奥宮さんの素の言葉遣いは先ほどまでの薄っぺらい敬語より、よっぽど心に訴えるものがあった。