かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
数拍の間の後、私は彼に背を向けたままようやく口を開く。


「……そちらを向いたとして、またお飾りの妻に関するお話を続けるつもりではないですか?」
「違う。ただ、きちんと顔を見て謝罪したいだけだ」


間髪入れず即座に否定される。

私は小さく息をつき、そっと身体ごと後ろを振り返った。

まだ今の自分は、おそらく堅い表情をしているだろう。それでも椅子から腰を浮かせていた奥宮さんは私と目が合うなり、どこか不安げだった面持ちから一転ホッとしたように頬を緩めた。


「……ッ、」


不覚にも、その表情の変化にドキリとしてしまう。

……顔がいいって、ズルい。
ゲンキンな自分に内心で呆れる。それを表には出さないよう、わざと難しい表情のままさりげなく奥宮さんの手を振りほどき、たった今立ったばかりの椅子へ戻った。


「改めて、申し訳なかった。誓ってこちらにあなたを侮辱する意図はなかったけど、そう取られても仕方ない発言だった。あれは撤回するし、むしろ忘れてくれたっていい。……許してくれとは言わない。ただどうか、謝罪を受け入れて欲しい」


テーブル越しにまっすぐ真摯な表情を私に向けた奥宮さんが、頭を下げる。

『許して欲しい』ではなく『謝罪を受け入れて欲しい』と続けたところに相手の反省と誠意を感じ取り、少しだけ溜飲が下がった。

まだ完全には信用しきれないけれど、ひとまず私は小さくうなずく。
< 26 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop