かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
完璧だわ……と感動に打ち震えながら無言で咀嚼していた私は、ふと視線を感じておもむろに顔を上げる。


「またそんな……そこまで笑わなくても……」
「っふ、ごめん、く……っあんまりにも、幸せそうな顔をしてるから……」


彼なりに込み上がる笑いを抑えようとはしてくれているらしく、奥宮さんは口を片手で覆いながらそっぽを向いていた。

……私、そんなにわかりやすく顔に出しちゃってた?
なんて思ってはみても、だからといってこの極上のスイーツを頬張りながら演技でも不味そうな表情なんてできないな、などと考えて、ケーキに粛々とフォークを入れる幸福な作業へと戻ることにする。


「そこまで夢中になられると、ちょっと妬けてくるな」


なんだかよくわからないことをつぶやいたかと思うと、奥宮さんが相変わらず笑みを含んだ声音で話しかけてきた。


「甘いものが好きなことはよくわかったけど、立花さんは花屋で働くくらい花も好きなんだろ? 花の中では、1番のお気に入りとかはある?」
「えっ」


不意に受けたその質問に、つい小さく声を漏らしてしまう。

たしかに“私”も、花はそれなりに好きだ。
だけど今、奥宮さんはフラワーショップ店員の“くれは”に対してこの問いかけをしている。

すでに破談になっている(はず)とはいえ、くれはの名誉にかけて下手なことは話せない。
逡巡したのち、私は控えめに答える。
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