かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「花屋で買うイメージとは、少し違うかもしれませんが……今の時期なら、ツツジが好きです」
「ツツジ? って、どんな花だったかな」
「奥宮さんも見たことはあるはずですよ。よく歩道の植え込みや公園の垣根に植えられていて、濃いピンクや薄いピンクの花を咲かせる背の低い木です。あ、白もありますね」
「ああ……なんとなく、わかった」


うなずいた奥宮さんに、自然と私は頬を緩めた。


「花自体の美しさももちろんなんですけど、花言葉もかわいいんですよ。赤い色のツツジだと『恋の喜び』、白いツツジは『初恋』です。なんか、春らしくていいなあって」


ふと、言葉を切った私はドキリとする。

正面にいる奥宮さんが、とても優しい眼差しを私に向けていることに気づいたからだ。

急になんだか落ちつかなくなって、私はあからさまに視線を逸らしてしまう。


「ま、まあ、花束にするようなお花ではないのですが……わりとあちこちにツツジをたくさん植えた公園があって、観光客が訪れたりとか……して、おります」


もごもごと続けた言葉は、語尾もおかしく終了した。

どう見ても様子がおかしい私になぜか今度はツッコむことをせず、奥宮さんはこちらを見つめたまま興味深げにうなずく。
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