かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「部下の好みは『真面目で穏やかな雰囲気の女性』。若社長の要望は『仕事絡みの場に連れ出しても苦にしないような、社交的で明るい女性』。まさにおまえたちにぴったりだろう」


それは……どうなんだろう。たしかにくれははその社長さんが挙げた条件に当てはまっているし、人懐っこい彼女ならお相手の方ともきっとすぐに仲良くできるだろう。

でも私は、単に内気で人見知りの、平凡を絵に描いたような女というだけだ。父の部下さんに気に入ってもらえるかは、正直微妙なところである。


「ね、お母さん。お母さんはお父さんが持ってきたこの話に反対じゃないの?」


私と同じく微妙な顔をしていたくれはが、ちょうどお茶を持ってきてくれた母に問いかけた。

母はトレーからローテーブルへと家族分の湯のみを置きながら、のんびり口を開く。


「そうねぇ、別にいいんじゃない? このお見合いがすぐに結婚に結びつくかはともかく、今まで会ったことがなかった人とお話ししたりできるのは楽しいと思うわよ~」
「お母さん……」


ニコニコと笑みを浮かべて答えた母のセリフに、くれはは気が抜けたような呆れ顔だ。私も思わず口をへの字にした。

厳格な父とは対照的に、母はいつもこんな調子でのんびりまったりとした雰囲気をまとっている。
ここまでタイプが違うふたりだけど夫婦仲は良好で、くれはに言わせると「お父さんはお母さんに甘えすぎで、お母さんは楽天家すぎ」らしい。


「とにかく、日曜の午前は空けておくように。これはもう決定事項だ」


キッパリと言って湯のみに口をつけた父を前に、私たち双子はなんとも言えない表情で顔を見合わせたのだった。
< 4 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop