かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「誤解のないように言っておくと、この見合い話は本当に最近出たんだ。別におまえたちに長い間黙って準備していたわけじゃない。まあ、先方と日程まで組んでから話したのはわざとだが」
「やっぱりインケンじゃない! 外堀埋めて私たちが断りにくくしてる時点で、充分悪質な計画的犯行だし!」
「……お父さん、その、相手の方たちも、ちゃんとこのお見合いに納得してくれてるの? 無理に約束させたとかじゃ」


くれはの不満に続けた私の問いに、ゆったりとソファーの背もたれに体重をかけた父が答える。


「まさか。ちゃんと相手方も納得ずくの話だ。ことはに会ってもらうのは、俺の部下の32歳の男だ。若いが優秀で、4月から融資業務室の室長をしている。真面目ないい男なんだが、仕事にかまけてなかなか恋人を作る機会に恵まれないらしい」


父は都市銀行の現役役員だ。口振りから察するに、よっぽどその部下の男性のことを気に入っているみたい。

ううーん、でも相手の方からすると、自分の上司の頼みを断れなかっただけでは?なんてことも考えてしまう。


「くれはの相手は最近仕事で知り合った若社長だ。歳は31歳。2年前に起業したばかりで、スマートフォン向けの広告配信事業を手がけている。正直かなり顔はいいぞ」
「何それ、好条件すぎて逆に怪しいし……性格に問題あるとかじゃないの?」
「話した感じ、人当たりのいい好青年といった雰囲気で別に問題は見当たらなかった」


くれはは眉をひそめているけれど、対する父はあっさりと返す。
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