かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「ふ……そんなに緊張しなくても」


奥宮さんの目から見ても私の状態はバレバレのようで、視線を前に向けたまま笑い混じりに言われてしまった。

うう、恥ずかしい……今の私はくれはなんだから、男のひとが運転する車の助手席に座るくらい、慣れっこのはずなのに。

すぅ、はぁ、と小さく深呼吸を繰り返して、なんとか言葉を紡ぐ。


「そんなこと……ないです。あの、今日はよろしくお願いします」
「そう? うん、よろしく」


やはり微笑みながら、奥宮さんが答える。

ハンドルを握るその横顔は、前回ホテルのラグジュアリーな空間で会ったときとはまた印象が違って見えた。なんだか、前よりもとっつきやすく思える。

今日はスーツじゃなくて、もっとカジュアルな服装だからかな。紺のシャツにグレーのインナー、白いパンツスタイルとすごくシンプルな恰好でも、整った顔立ちにスタイルのいい奥宮さんが着るとそれだけで様になる。


なるほどたしかに……こうして話していると、人当たりのいい好青年だ。

今さらながら、お見合い前に父が言っていた印象に納得する。
だけど私の中では、初対面で冷たい表情を向けられたあの記憶も、どうしても拭えずにいて。

……どっちが本当の、奥宮さんなんだろう。
< 44 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop