かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「またきみは、俺に穴でも開ける気?」


言われてハッとした。初対面のときと同じように、またぼんやり見つめすぎていたらしい。


「すみません……あの、今日も素敵だなと思って……」


膝に置いたハンドバッグを握りしめてうつむく私は、恥ずかしくて消え入りそうな声でまた馬鹿正直にそんなことを言ってしまう。

くつくつと喉の奥で笑っていた彼は、この発言がさらにツボに入ったらしい。今度は声に出して笑いながら、前方の信号が黄色に変わったのを見てブレーキを踏んだ。


「ははっ、立花さんにそう言ってもらえるなら、光栄だ」


そうして奥宮さんは、赤信号で停車しているのをいいことに助手席の私へ顔を向ける。


「言いそびれてたけど、素敵って言うならきみの方こそ。こないだのフォーマルな服装とはまた違った雰囲気で、かわいい」


まっすぐ視線を合わせたまま甘い声でささやかれた瞬間、ぼぼっと顔に熱が集まった。

そんな私の反応を見た彼は、おや、といった調子で目を丸くする。


「ホテルで褒めたときは軽く流されたのに、今のは違うんだ。少しは俺のこと意識してくれたってこと?」
「そ……っそんな、ことは、あの」
「冗談冗談。あんまり緊張しないで、リラックスしてて」


ふんわり微笑む奥宮さんにそう言われたって、全然リラックスなんてできるわけない。

顔が熱くてたまらなくて、今すぐ逃げ出してしまいたいほどだ。まだ会ったばかりだというのに、こんな調子で大丈夫なんだろうか。
< 45 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop