かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
くすくす笑い続ける私は、運転席の奥宮さんがとても優しい眼差しで自分のことを見ていたことに気づいてドキリとした。

視線が交わった彼は、その色っぽい流し目をイタズラに細めてすぐにまた前を向く。


「その友人が──男なのか女なのかについては、訊ねてくれないの?」
「え……」
「まあ、まだそこまで俺に興味はないか」


内容のわりにあまり悲観した様子もなく、奥宮さんはそんなことをつぶやいた。
私の思考が彼のセリフの真意にたどり着く前に、そのタイミングで車が目的地へと到着する。

白い壁にオリーブ色の屋根がかわいらしい建物の前にある駐車場に車は停まり、エンジンを切った奥宮さんが私の顔を覗き込む。


「着いたよ。行こうか」
「えっ、あ……えと、はい」


未だ呆けながら、こく、とうなずいた。

奥宮さんは苦笑にも見える表情でじっとこちらを見つめたかと思うと、不意に視線を外して車を降りる。

運転席のドアが閉まる音にようやく我に返った私は、慌ててシートベルトを外し助手席のドアを開けた。

ええっと……さっきの、奥宮さんのセリフって……?
彼のあとを追ってお店の出入口に向かいながら、自分の脳内に浮かんだありえない推論に困惑する。

まさか、そんな。
まるで、私にヤキモチを妬いて欲しいみたい──なんて。
そんなの、いくらなんでも自惚れすぎる。一瞬でも浮かべてしまった考えが猛烈に恥ずかしくて、思わず両手で頬を挟んだ。

どこまで行っても、リラックスなんて言葉にはほど遠い。
そうして私は奥宮さんが開けて押さえてくれていたドアを、また恐縮しながらくぐるのだった。
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