かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「それと、お母さまの気持ちを『無駄な期待』だっただなんて、そんな悲しいこと言わないでください。だってきっと……お母さまは本当に、奥宮さんやお兄さまと出会えたことは幸せに思っていたはずですから」
私の言葉を聞いた奥宮さんが、僅かに目を瞠る。
それからふっと気が緩んだように、吐息と微笑をこぼした。
「……うん。母は俺たちのことを心から大切に想ってくれてたって、それだけは断言できるよ」
……よかった。そのやわらかな声音に、安堵する。
けれど、それから彼がこちらに身体を寄せてきたと思うと、私の肩へひたいを預けてきたから──驚いて、硬直した。
「いきなり、ごめん。ほんと、立花さんは……」
あとに続いたはずの言葉は、声として私の耳には届かなかった。
尋常じゃないくらいに心臓が早鐘を打っていて、体温も急激に上がっている気がする。やっぱり奥宮さんからは、いい香りがした。
数分だったのか、それとも数秒だったのか。永遠にも感じる時間そうしていたかと思うと、不意に奥宮さんが頭を持ち上げた。
至近距離で目が合い、ふわりと笑う。
「真っ赤。かわいいな」
「……ッ、そ、そんなことは」
「かわいいよ、立花さんは。最初からずっと」
言いながら奥宮さんはようやく身体を起こしてくれたけど、顔の熱さと心臓のうるささはひどくなる一方だ。
彼の甘すぎるセリフと表情に、目眩を起こしそう。なんとかこの雰囲気を変えたくて、必死で言葉を探した。