かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「くれは? ことはだけど、帰ってきたよ」


帰宅して手洗いなどを済ませてから、真っ先にくれはの自室のドアをノックした。

少しの間のあと、内側からドアが開く。姿を見せたくれはは、顔をぐちゃぐちゃに歪めて目を真っ赤に泣き腫らしていた。
 

「くれは……?」
「……私、バレちゃった」
「え?」


ポツリとこぼしたつぶやきに問い返せば、私を見つめるくれはの両目からまた大粒の涙があふれる。


「瀬古さんに……っ入れ替わりのことが、バレて……『ずっと騙してたのか』って、こわい顔……して」
「……くれは」
「嫌われちゃった……私、瀬古さんに、嫌われちゃったよぉ~」


そう言って私の両腕にすがりつき、声を押し殺して泣きじゃくる。

妹の悲痛な嗚咽を聞きながら呆然とする私の脳裏には、つい数十分前に見たばかりの、大好きな優しい笑顔が浮かんでいた。
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