東堂副社長の、厳しすぎる初恋 +7/18
東堂大毅は、とある裏路地で立ち止まった。
時刻は夜の十時を回っている。
人影のないその路地で建物の隙間にボンヤリと白く浮き出る物が見えた。
それは白い猫だった。
白猫は腰を下ろし前足を行儀よく並べ置物のように座っている。
赤い首輪をしているし毛並みがいいので飼い猫なのだろう、大毅をジッと見ている。
どうやら白猫は左右の目の色が違うようだ。
「お前、家出したのか?」と声をかけたが、猫は逃げる様子も見せずおもむろに毛繕いをはじめた。
大毅と猫の間は距離にして三メートルほど。
ふと思い立って大毅は猫に近づいた。
どれくらいまで近づくと逃げるだろう? 飼い猫ならば逃げないだろうか? そう思いながら一歩さらに一歩と近づいた。
残りあと一メートルというところで猫はクルリと体をひねり、建物の間に入っていく。