東堂副社長の、厳しすぎる初恋 +7/18
宝くじが当たった時、叶星は兄にだけ正直に相談した。

大学を卒業したあとも定職に就かず、世界中を旅していた兄は、どういうわけだか旅するお金に困っていない人だった。
聞けば学生の頃から先物取引やら投資で収入を得ていたらしい。

自由人の兄を、悪く言う人々は多かったが、叶星は子供の頃から兄が大好きだった。

叶星の話を聞き、『わかった。一億だけ俺に渡せ』と言った兄は、唯一信頼できるという友人を誘って投資会社をはじめ、叶星が預けた一億円をもとにしてあっという間に事業に成功し、両親連れてシンガポールに移り住んだのである。

いざという時はいつだって兄は頼りになる。

宝くじの話を誰にもできない悩みを相談すると。
『友達には俺が成功した金で裕福になったと言えばいい。今更実は宝くじに当たったとは言えないだろう?』
兄はそう言って慰めてくれた。

< 88 / 394 >

この作品をシェア

pagetop