183日のお見合い結婚~御曹司は新妻への溺甘な欲情を抑えない~
啓介はノックせずに入ってくるので、訪問者を予想できないまま、「どうぞ」と声をかけた。

すると、入ってきたのは女性である。

上品なワンピースに涼しげな生地の半袖ジャケットを合わせ、高級ブランドの限定品のハンドバッグを提げている。

髪は前髪から全てを後ろに流してひとつに結わえ、その髪形が目鼻立ちのはっきりとした顔によく似合っている。

「柊哉、お久しぶりね」

そう言った彼女は、半分血の繋がった姉の響子。

歳は三十五で、柊哉と五つ違いだ。

白川専務の妻でもあり、子供がふたりいる。

柊哉は瞬時に好青年の顔を作り、姉に歩み寄った。

「姉さん、いらっしゃい。義兄さんに用事があってきたの?」

「ええ。もう用事は済ませたわ。柊哉の顔を見てから帰ろうと思って。元気そうで安心した。忙しいと聞いていたから、体調を心配していたのよ」

響子は上品な笑みを浮かべている。

けれどもその目は冷えていた。

柊哉を気遣う言葉は社交辞令のようなもので、心配して電話をかけてきたことはただの一度もない。

今さら傷つくことはないが、いい気分ではないと、柊哉はため息をつきたくなる。

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