元カレ社長は元カノ秘書を一途に溺愛する
「子供が生まれた時も一緒にいなかった。子供の行事にも参加したことなど一度もなかった。」
瑠衣のことだとわかりながら杏奈は話を聞く。
「なのに文句のひとつも言わず、たまに私が帰ると必ず私の好物をたくさん作ってあってね。それがいつも予告すらなく突然帰宅してもあるんだよ。私の好物が。」
「素敵な奥様ですね」
杏奈の言葉に理事長は深く頷く。
「あぁ。私にはもったいないくらいのいい妻なんだ。」
よく見ると理事長と瑠衣は似ている。

そんな理事長が悲しそうにうつむいた。

「気づかなかったんだよ」
「え?」
「妻が体の不調を感じていることに。気づいたときにはもう手遅れだった。」
ここはがん患者専門の病院だ。
「妻が倒れて初めて末期の胃がんだとわかった。」
「・・・」
「余命3カ月」
その言葉に杏奈は理事長が社長を退任した時期や瑠衣が覚悟を決めてあとを継いだことがリンクして、やっといろいろな背景が見えた気がした。
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