ロマンティシズム
 まさかもう帰ってこないとか、ここで捨てられたということもないだろう。

と雪野は観念しておとなしく順番待ちの列に加わる。

重く感じられてきた荷物を足元に下ろし、改めてカードの文字を読んでみた。


 ロンドンに本店を置くスィーツショップ、『ブレイクニー』の、クリスマスケーキの予約引換券。

店の名前がイタリック体で、カッコ良く刷り込まれている。

その名前も紋章も、雪野世代の女子ならばなじみのものだ。

自分にごほうび、季節を感じて、特別な日には、気になるスィーツ、感激ゴージャス、休日お洒落に―― 

どんな形でもいくらでも、雑誌に登場している名前だった。
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