死のうと思った日、子供を拾いました。
「そうなのか? ……俺にはよくわからない。恋人も愛もどういうものか知らないから」
愛しているって言葉を聞いたことはあるけど、面と向かってそう言われたことがないから知らないってことか?
「真希さんの愁斗への態度が愛だ」
まるで信じられないかのように、愁斗は瞳を丸くする。
「え、姉ちゃんって俺のこと愛してんの?」
「ああ。俺にはそう見える。新太もそう見えているだろうな。気づいてなかったのか?」
「わかんねぇよ。俺ドラマで見た愛しか知らねぇもん」
恋愛ドラマのことか。
俺はつい顔を伏せた。
真希さんがたくさんの愛情を与えても、親に愛されたことがない愁斗にはそれが愛だとわからないのか。血の繋がった相思相愛の姉と弟なのに片方が不倫の子なせいでお互いが向けている感情を理解できなくなるなんて、なんだかやりきれないな。
「……あの様子が愛なら、そういう様子の人と一緒にい続けたいと思うのは変なことじゃないと思う。欲張りかはわかんないけど」
思わず顔を上げた。
「なんでそう思うんだ」
「俺も姉ちゃんといると幸せだし、今は姉ちゃんが隣にいないけど、つまんないとは思ってないから……その日々がなくならないで欲しいってのはわかる気がするから」
驚いた。俺といて退屈じゃないのか。
「真希さんといない時間は必要ないのかと思ってた」
「必要ねぇよ。でも今は、そういう時間があってもいいとは思ってる」
上からだなあ。
きっと考えもしてないんだろうな。俺と新太がそのつまんなくない日々を作るために相当手を焼きながらお前の面倒を見ているなんて。
「真希さんが聞いたら嬉し泣きしそうだな」
「言うなよ絶対」
愁斗は眉間に皺を寄せて、恥ずかしそうにぼそりと声を出した。
「はいはい。……ありがとな」
「は?」
愁斗が素っ頓狂な声を出す。
「少し肩の荷が下りた」
愛が中学生があって欲しいと思うものなら、大人の俺があって欲しいと思い続けるのは少なくとも馬鹿げたことではないハズだ。そう考えたら少しだけ心が軽くなった。
「ああ、そう」
「みんなのところに戻ろうか、愁斗」
「ん」
俺の言葉に頷いてから、愁斗は後ろを向いてフードコートを見た。愁斗と同じようにフードコートを見回すと、ラーメン屋のそばにある四人席に新太と真希さんがいるのが見えた。真希さんはチャーハン、新太はラーメンを食べている。俺と愁斗が近づくと、新太は箸をおぼんの上に置いた。