死のうと思った日、子供を拾いました。
「愁斗! そんなこと言わないの! えっ、どっ、どうしたんですか?」
「げっ!」
いつの間にか、涙が流れていた。真希は戸惑った声を出し、愁斗はめんどくさそうに顔をしかめた。
「婚約者が死んだらしい」
「そうなんですか?」
「はい。……すみません、お見苦しいところを見せてしまって。確かに私は彼の言う通り、感謝など微塵もしていません。ただ、どっからどう見ても中学生に見えるのに、捨て身で車道に突っ込んでくる愁斗くんに興味が湧いて、いてもたってもいられなくて、ついてきてしまったんです」
「愁斗! 何でそんなことしたの?」
愁斗の肩を掴み、真希さんは叫ぶ。
「……うるさ」
愁斗は億劫そうに顔をしかめた。
「愁斗!」
「……ごめん。言われなくても死なないよ。姉ちゃんが死ぬまでは」
「私が死んでも生きて」
「それは却下。シャワー浴びてくる」
そういい、愁斗は真希さんの腕を振りほどいて、風呂場に向かっていってしまった。シャワーか。走ったせいで汗臭いからか。
「もう! ……ごめんなさい。こちらこそお見苦しいところを見せてしまって」
「いえ。あの、彼はどうしてあんなことを?」
「そうですね。……ここで説明するのもなんですから、どうぞ上がってください」
そう言い、真希さんは玄関の隅におかれたスリッパラックから、スリッパを一つ取り出す。
俺がそれを履くのを見てから、真希さんは後ろを向いた。
真希さんの後をついていくと、ダイニングルームが見えた。
キッチンが安っぽすぎる。角やコンロがさびついていて、全体が油やオイルで汚れている。かなりボロそうだ。新品で買ったものにはとても見えない。それに、キッチンの前にテーブルじゃなくてちゃぶ台がある。隅にあるクローゼットも大人の人間が一人入れそうなくらいの大きさで、二人で使うにはやけに小さい。
「フフ。安っぽくてびっくりしましたか?」
「いえ、そんなことは……」
「いいですよ気を遣わなくて。安いモノばかりなのは確かですしね」
そういうと、真希さんはダイニングルームの奥にあったドアのそばまで歩いた。真希さんが目の前のドアを開けると、そこにはお風呂場とトイレと洗面所が一緒になっている空間があった。。三点式ユニットバスか。お風呂場はカーテンで仕切られていた。
「えっ」
嘘だろ?
洗濯機がない。代わりに、洗面所には洗濯板が置いてあった。
「まさか、手洗いしてるんですか?」
「はい。節約です。この部屋で私と愁斗の二人で暮らしているので」