死のうと思った日、子供を拾いました。
四章 君がいる世界
「そしたら私、一回アパート戻って愁斗と私の荷物持ってきますね。歯磨き粉も持ってくるので、今日薬局で買うやつは、それがなくなったら使いましょ」

「はい。俺も一緒に行きますよ。愁斗も行くか?」

「うん、行く」

「あ、流希さんスーツケースが大きめのダンボールありますか? できたらそれに荷物を入れたいんですけど」

「ああ、そうですよね。ちょっと待ってください。持ってきます」
 自分の部屋からスーツケースをとってきて、それを玄関に置いてから三人でダイニングに行った。

 椅子に腰を降ろして、テーブルに並べられた料理を見る。白米にさばの味噌煮に味噌汁だし巻き卵か。和風の美味しそうな料理だ。

 ん?
 大根おろしとしょうがが卵の横に置いてある。あえてそうしているのか?
 愁斗が皿から卵だけをとって食べた。
「愁斗、大根としょうがは?」
「辛いからいらない」
 俺を見て、愁斗は不機嫌そうに顔をしかめた。
 なるほど、愁斗のために分けて置かれていたのか。

「それがいいのに」
 真希さんは卵に大根おろしと生姜をつけて、その上に醤油をかけた。

「そうですね。だし巻きはやっぱりそうやって食べないと」
「はい。愁斗もやってみなよ」
「無理」
 嫌そうにいーと口を横に伸ばしてから、愁斗はさばを口に運んだ。

「愁斗、保健室嫌い?」
「別に嫌いじゃないけど、つまんない。勉強しかすることないから。郁也が同じ学校だったらまた違う気はするけど」

「郁也って愁斗より年下なのか?」
「うん、あいつ小六」
 それなら今は十月だから愁斗と同じ中学に入学することになっても、少なくとも後半年くらいは小学生のままってことか。

「……やっぱ同じ学校じゃダメかも。俺が馬鹿なのバレるから」
「そうとは限らないだろ。郁也がいる時は勉強の話をしないようにすれば、バレる確率は一気に下がると……」

 いや、下がらないか。
 愁斗はきっと郁也の前では、俺と話している時みたいに、会話をしている途中でわからない言葉を聞いても面と向かってそれの意味を尋ねようとはしない。でもそうやって何かがわからないまま会話を続けたら、郁也はそのうち話が噛み合わないと思うようになる。そう思ってしまったらいずれ、愁斗と自分の学力の違いに気づくハズだ。
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