死のうと思った日、子供を拾いました。
「フ。もう少し考えてから喋れば?」
 俺を見て愁斗はクスクスと笑った。

 ののしらないのか。

「何」
 愁斗が眉間にしわをよせて不審そうに俺を見る。

「え、いやてっきりもっとよくない言い方をされると思っていたから驚いて」
「んー“否定できるかわかってないうちから言おうとすんじゃねえよ、馬鹿”みたいな?」
 イメージ通りの返答だ。
「ああ」
「はあ。これから一緒に暮らすのに、いちいちそういう風に言ってたら俺が疲れる。それに今のは、俺のために言おうとしてくれたってわかるから」
「そうか」
 確かにいつも怒ったり悪い態度をとったりしていたら疲れるな。

「ふふ。ありがとね、愁斗。三人で暮らす気になってくれて」
「うん。大丈夫だよ。流希といることで姉ちゃんの疲れが少しでもなくなるなら、俺はちゃんと合わせるから」
 一緒に暮らすのを受け入れたのはそういう理由もあったのか。

「いい子!! 可愛い!!」
 真希さんが愁斗を抱きしめた。

「姉ちゃん、流希いるから」
 愁斗の言葉に構わず、真希さんは腕に力を込めた。
 愁斗は重度のシスコンだけど、真希さんもそれに引けをとらないくらいブラコンだよな。

「はあ……俺も兄弟欲しかったなあ」
「あんたは新太が兄弟みたいなもんじゃん」
「いや新太は一人じゃ色々しでかすから俺が見張っているようなもんだから。昨日だって俺が止めたのに酒飲もうとしたし。まあ、あの明るさには救われることも多いけど」

「ふーん? 新太って明るすぎて年上って感じしないよな。あと馬鹿」

「ああ。あれでも仕事では営業成績一位だけどな。一週間くらい前に一緒に酒飲んだ時に言ってた」
 確かそうだった。

「だから昨日もここ泊まんないで帰ったのか?」
「ああ。布団なかったしな」
「人は見かけによらないって本当なんだな」
「いや見かけ通りだろ。あいつは昔から口が上手いんだよ」

「そうか? あいつ、仕事嫌いそうな見た目してるじゃん。上の人にバレないよう気をつけながらサボってそう」
 確かに営業をしているわりに染髪剤は五百円以下の安物だし、ワックスやジェルもつけていないみたいだからなあ。

「あーそれはそう。営業行ってきますって言って外出て、喫煙所で時間ある程度つぶしてから客に会いに行ってるって前言ってた」
「ヤバ、不良じゃん」
 愁斗が歯を出して笑った。

「ああ。でも皆見て見ぬ振りだ。成績が良いから」
「ふーん。必要とされてんだ?」
「ああ、そうだろうな」
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