死のうと思った日、子供を拾いました。
病気にかかっているわけでもないのに、足が重たい。精神が弱っているからか。重さを無視して動かしていたら、どうにか学校に着く。
「愁斗!」
保健室のドアを開けたら、かけ算のテスト中だった。先生が俺を見て、人差し指を立ててくる。
しまった、静かにしないと。
愁斗が口を動かす。声は出していない。
『おせーよ、バカ!』と言われている気がして、つい笑顔になる。
怒っていたんじゃなかったのか。
先生に促されて、廊下に出る。
「こんにちは。お兄さんは……愁斗くんの親戚ではないですか?」
似ていないよな。
「はい。愁斗の姉の真希さんが、用事で来れなくて。
彼女に頼まれて、来ました」
先生は目をぱちぱちさせる。
「愁斗くんのお姉さんの恋人さん?」
え? 彼女っていったからか? 変な勘違いをさせてしまった。でも、近所の人と理解されるよりは、そう理解された方が都合が良い。
「はい、彼氏です」
ごめん、夏菜。裏切るような発言をして。
「そうでしたか。では、戻りましょうか。そろそろ解き終わっていると思いますので」
保健室のドアを開けて、先生は中に入る。後を追って、前を見る。
「先生、これ」
愁斗が答案用紙を先生に渡す。
満点でありますように。
「うーん、答えは合ってるんだけどねぇ」
先生が腕を組んでしまう。
「んだよ」
「愁斗くん、名前は漢字で書こうか」
先生が答案用紙を指差す。しゅうとと書いてある。数学じゃなくて漢字を勉強させるべきだったのか?
「九十九点かなぁ。おしい」
点数を書いて、答案用紙を愁斗に返す。
「かけ算のテストだろ。名前は関係ねぇ」
「うーん、そうだねって言いたいんだけど。名前は書けるようになった方が良いから」
確かにな。
「ちえっ」
答案用紙を折って、愁斗はポケットにしまう。愁斗が立ち上がる。
「今日はもう帰ります。さよなら」
「はい。教室に戻るのかとかの話は、また今度ね。さようなら」
愁斗に手を振ってから、先生は俺にお辞儀をする。お辞儀を返して、愁斗の後を追って保健室から出る。
「来ないかと思った」
歩きながら愁斗は口を開く。
「自分でも信じられない。よく来れたなって思ってる」
バツが悪くて、俺は頬をかく。
「いいのかよ、死んだ奴より俺を優先して」
愁斗は俺の手を触る。
「あぁ。そうしないといけない気がしたし」
ぎゅっと愁斗の手を握る。愁斗の頬が赤く染まる。嬉しいのかもしれない。そうだといいな。
「愁斗、流希さーん!」
真希さんが手を振ってくれる。
「面接無事終わりましたー。合否は一週間後ですけど」
「はぁ、よかった。愁斗のテストも終わりましたよ、99点です」
真希さんは目を見開く。
「えぇ! やっぱり、やればできますね! よかったぁ」
愁斗を抱きしめて真希さんは喜ぶ。
「……真希さん、愁斗のことお任せしていいですか、俺用事あって」
葬式は今から行けば間に合うか?
「は、はい。どうかしたんですか」
「夏菜の葬式にいかないとで」
「え、すみません! タクシー呼びますか」
「良いですか? 新幹線も取らないと」
タクシーが来ると、愁斗と真希さんもそれに乗る。
「あの、二人はどこに行くつもりですか」
「もちろん、夏菜さんがいる場所です。遅刻したら、弟の世話をお願いしたせいですから」
「いやいや、そんなことないです」
真希さんが微笑む。
「そう言うと思いました。でも、私も行きたいです」
「すみません、助かります」
東京駅まで行くよう、タクシーの運転手にお願いした。


